先月の末(10月29日)から新水族館建設の工事が始まっている。連日目の前の駐車場で重機が地面を掘り返している音がやかましいくらいだ。
駐車場が狭くなり訪れるお客様にすっかり迷惑をかけている。まあこれも50年に一度の生みの苦しみの一つなのだろうから、ご勘弁いただく他無い。しかし完成するのが来年の12月ごろなので、こんな状態で1年間営業を続けることになる。これも今から苦労の種と心配でもある。
このところ特に入館者が増えたせいで、5月の連休とか夏休みには相当な混雑ぶりが予想される。この近くの空き地は全て使わせて頂いて対応するつもりだ。それでもかなり迷惑をかけてしまいそうだ。
今朝一番で工事の業者さんが、分厚く製本された工事の設計図を持ってきてくれた。これまで何度となく打ち合わせをしてきた内容だが、改めて開いてみると全ての水槽に擬岩が描かれていた。
擬岩の絵を見ているうちに何だか涙がこぼれそうになった。他の水族館では普通にある水槽内の擬岩がここ加茂水族館にはなかったのである。49年前に建てられた時に何がどうしたのかは分からないが、海水魚にも淡水魚にも、アシカやアザラシのプールにも、擬岩は取り付けて無かった。
ただの四角いコンクリートの箱が展示水槽だった。殺風景なことこの上ないとはこの事、何とかして他の水族館みたいないかにも自然らしい雰囲気の出るかっこいい擬岩が欲しかった。
もう30年にもなったか、昭和55年と56年だった。海水魚水槽を取り壊して作り変える工事をしたことが有った。
水槽の割に小さかったガラス窓を倍の面積にして、深さと奥行きを50%大きくする工事をした。この時に擬岩を取り付けることも計画したが、とても専門の業者をたのむだけの資金が無く、断念せざるを得なかった。
しかし何とかまがい物でもいいから取り付けたかった。知り合いの左官屋さんにお願いして、コテで薄い擬岩らしきものを作ってもらい、水槽の壁に貼り付けてみた。しかし見栄えしない上に薄く作った分ただのコンクリートの凸凹にしか見えなかった。
矢張りいかにも岩らしい色が無ければ役に立たない。色は職員で手分けして塗ってみた。やってみると色付けが予想以上に難しい事が分かった。幾ら頑張ってもそれらしい色にはならなかった。
どうにもならないままに水を張って魚を入れてしまった。以来30数年も肩身の狭い思いをしながら過ごしたことになる。あのころの思いが甦ってきて、ついつい泣きそうになってしまったと言う次第だ。本当に貧乏はしたくない。
新しい水族館に生まれ変わるのが楽しみな理由が他にもある。ここは何時頃からか雨漏りがして止めることが出来ずにいる。お客様はその気になって通路の天井を見上げれば、あちこちシミが見えるし貼り紙が剥がれている所もあるはずだ。
静かに降る雨だと漏ることは無いが、風が伴うとどこから来るのかたどりようも無い。予想だにしない所から浸みだして漏るのである。勿論それと思えるところは全て手当したが、風が強いと壁に張り付いた雨がひび割れを伝って中に浸みいり、天井に滴り落ちてくる。
仕方がないので天井裏で大きな漏斗で受けて配管で外に出すようにしているが、それでも毎年新しい雨漏りができて天井から落ちてくる。これが館長としては実に情けなかった。
今どき雨漏りがする水族館なんてそうある訳がない。床に何個もバケツを置いて滴る雨漏りを受けるたびに、「困ったもんだノー、クラゲで有名にはなったが雨が漏る水族館ではノー、ヤンダクなったなー。」ほんと穴が有ったら入りたい心境だった。