庄内弁が最高

ついこの間の出来事のように感じるが、思い出してみれば平成17年の5月だったから早いもので9年になろうとしている。遠い昔ではないがこれも思い出の一つとなってしまった。

あれは150億円かけてオープンした大洗水族館で行われた日動水協の総会の場だった。総会には会員がおよそ150名参加してそして毎年必ず総裁であられる秋篠宮さまも出席される最高の場面である。
日本全体の各ブロックから一人ずつ6名が登場して居並ぶ園館長に自分のところの取り組みを発表するという企画だったと思う。

毎回行われていた講演会が多少飽きが来ていたこともあって、たまには変わったことをするもの良いのではないか、それぞれの園館が業績を上げるためにどんな取り組みをしているのか、これを聞くのも大いに参考になるだろうとの思惑から出た企画だった。

一番大所帯だった関東東北ブロックからはどこを出したらいいのか多少の議論があったようだったが、規模が大きくて新しく誰が見ても立派だと思える水族館ではなく、苦労の経営を少し建て直しクラゲで世界一の展示を始めた加茂水族館が面白そうだあそこが良いだろうと私が選ばれた。

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「夕陽を見続けた館長」というタイトルも、秋田市の大森山動物園の小松園長より授けられて、俺でいいのかと思いながらも出かけて行ったという次第だった。
規模も内容も協会で一番小さくおまけに築41年とすっかり古くなったわが加茂水族館はどのように見ても存在感は薄く、居並ぶ150名の園館長の中ではどこに在るのかさえ知らない人が多くいたほどで、1番さえない存在だという事は疑いなかった。

私にだって恥を知る思いが有る。居並ぶ園館長の前に立つにはどうにもやりきれない劣等感があった。老朽、弱小、貧乏水族館が聞く人に強い印象を与えるためにはどんな話がいいのか思い悩んだ末に、私が採ったのはバカバカしいほども浮世離れした語りかけだった。
聞く人が理解不明でもいいから堂々と庄内弁で語りかけること、、恥ずかしいなんて言っていないで波乱の運命を余さず聞かせ、ドン底から這いあがる物語を展開する、それもなるべく聞いて楽しくなる内容をふんだんに盛り込む、出来れば大いに笑わせるという作戦だった。

私の前に語った3人の話はいい内容だったがすごくまじめだった。聞いている150名もあまり盛り上がらず反応はそれほど芳しくなかったように見えた。

存在さえも知られていなかった私の話はどなたも期待していなかったと思う。そこに平成9年にどん底を迎えたこと、日本海に沈む夕日が加茂水族館の運命と重なって見えたこと、背負わされた億を超える借金、また本社の借入のために家屋敷を担保にしたこと。
借入れ金を自分の責任で返済すると念書を書かされた事、倒産を覚悟し16代続いた家屋敷を競売にかけられる窮地に立ったこと、夫婦別れか親子の縁を切るかの瀬戸際まで落ちたこと、などを手短に語った。

それからおもむろにクラゲに出会って奇跡の復活を成して行く過程を語った。しかし坂道を転げ落ちていた歯車は簡単には逆転してくれない。何とかするために使った手段は聞いた相手が呆れて笑い出すほどユーモアに富んだアイデアだった。そのまま語って聞かせた。

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・加茂水族館の公用語は庄内弁!

これが大当たりした。私がズーズー弁で「まんずジェニがねえと言うのは困ったもんだ、クラゲの卵を見る顕微鏡も買われねがったんだ」「クラゲ担当からは顕微鏡がねえと卵が見えねがら繁殖させられねーと言ってきたが、ジェニネーナや、ちぶれそうなんだという他ねがった」
「日本一の展示をしたが誰も評価してくれねがった、どもなねがらクラゲしめで来てクラゲを食う会をやったんだ」このあたりからもう会場は笑いの渦に包まれた。

私はうんと真面目な顔をして続けていった。「皆さん笑ってっけんども、わだしはイッショケンメー真面目にしゃべってんです」と言ったらもう爆笑だった。そこに間髪を入れずに「クラゲ入り饅頭、クラゲ入り羊羹」と続けたら、総会という場所も忘れて笑い転げて一気にこの場の関心は私に集まった。

会場を埋めた園館長は沖縄から北海道まで日本中から来ていた。私の庄内弁はどこまで理解できたものか分からなかったが、意表を突いた堂々の発表は、間違いなくハートが破裂するほども揺さぶられたと見えた。
壇を降りて席に戻る私に皆が笑顔を見せて立ち上がり握手を求めてきた。私は「やったようだな」と感じた。無くてもいいと評された小さな水族館が、まずは全国の園館長に強く印象づけてその存在を知らせる事が出来た。

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私の次に登壇した旭山動物園の園長小菅さんが、開口一番に「加茂水族館の村上館長には足元にも及びませんが」と言いながら、旭山動物園は職員が「アイデア集団」だと言う紹介をしていた。

あの小菅さんに評価されたこの言葉がたまらなく嬉しかった。業績では彼の足元にも及ばないが、この日の人気は私に軍配が挙げられたと思っている。

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