ついに来た閉館の日


新水族館が建設中で車は200m離れた港に置いている。トンネルをくぐってカーブを曲がり正面玄関を目指したら館前にテレビ局が2社、私が歩いて出勤して来るのを待ち構えていた。

そうだった今日は特別の日だった、50年の歴史に幕を閉じてこれから半年の休館に入る大きな節目を迎える日だった。

待ち受けていたテレビ局は東京から来たNHKさんと、もう1社は地元のさくらんぼテレビさんだった。歩いている途中で声をかけられた。「今日で閉館になるわけですが、心境はいかがですか」「まんずこれで終わりだと思うと寂しいもんだノー、しかしそれよりも何よりもすべてが緊張の種だな」

目の前では、来年の6月オープンの予定で新水族館が巨大な姿を現していた。これがうまくゆくか失敗するかいつも頭を離れないのだ。ミズクラゲの巨大水槽を作るんだといえば格好いいが、何かの拍子に全滅してしまえばそこから先、展示するものがいないのだ。

そんな事がこれまでも何度かあったのだ。「昨日の夜仕事を終わって帰るときは皆元気だったが、出勤してみたら1匹残らず死んでいた」という事が1度ならず2度、3度と起きたのだ。

これが再び起こらないとは言い切れない。いくら実力をつけても場数を踏んで経験を積んでもその不安はついてきた。新水族館が成功するか失敗するかは全てがミズクラゲの繁殖と展示にかかっていると言って過言ではない。

最大の水槽には万というおびただしい数のミズクラゲが必要になる。またここの展示の特徴は50種に及ぶ多種類を常設するというところにある。当然ミズクラゲを食べて成長し健康を保つクラゲも10種ほど含まれている。生産が滞れば展示のミズクラゲが餌として使われ減ってゆくことになる。毎日500も1000も作り続けなければならないという離れ業が求められるのだ。

出勤の途中でテレビ局に聞かれたが、いつもこんなことが頭の中を渦巻いている。

ところで今日の日は夕方には市長が来て4時45分からちょっとした挨拶と、加茂町の子供たちからの言葉や記念品の贈呈などがある。そして3時からは地元の皆さんに無料開放し一緒に5時の閉館を見守っていただこうという事になっていた。

朝からめったに顔を見ない古い友人やら親戚やら地元加茂町のひとたち、また昔共に働いた従業員などが次~次に入館してきた。夕方に向かってさらに訪れる人は増え続けて時ならぬ大賑わいとなった。

ついに来た終わりの時を一目見ようと水槽前の広場には人が埋め尽くし、市内外の報道関係者が数えきれないほども陣取っていた。最前列には加茂小学校の子供さんたちが40人も並び5時のカウントダウンを待ってくれた。

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合図とともに10から9、8と皆でカウントして館内の照明が消された。ついに終わりの時が来たのだ。一息ついたところで「館長何か一言」と司会者に求められた。

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48年もここで頑張っていたんだ。言いたいことは山ほどもあったが、「平成9年にはどん底を迎えて閉館を覚悟いたしました。今日このように希望を胸に抱いての閉館とは違う寂しいものでした」「これまで支えてくれた市民の皆様に感謝します」わずかこれだけが私のお別れの言葉だった。

同じ閉館を迎えるという言葉でも希望をもって先に進めるのと、すべてを失って去るのとは天と地の違いがある。今あることを感謝せずにはいられない。

館長人情話

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